新しい真鶴のハブ
真鶴のおおみち通りは、現在では空き店舗やシャッターの閉まっているお店が目立ち、1980年代の写真と比べるとまるで別の町のようにも見えてしまいます。それでもここ数年、この通りを再び盛り上げようという動きが、俄かに活性化しています。

おおみち通りのローソン向かいに、2022年にオープンした「cüe(キュー)の場所」があります。ここには真鶴らしい、ゆるくのんびりとした「真鶴時間」が流れ、地元の方と観光で訪れた方々が自然に交わることのできる素敵な空間が広がっています。
cüeの場所とは
店主のジュンコさんは、普段は「真鶴出版」でお仕事をされています。お店は不定期営業ですが、主に仕事がお休みの日曜日や月曜日にオープンしているそうです。「お店」といっても、決まった商品が並んでいるわけではありません。その時々にジュンコさんが「好き」と感じたものを集めている場所なのです。

展示が行われていたり、本やグッズが販売されていたり……と、日によって場所の雰囲気はガラリと変わります。私が訪れた日は、ジュンコさんの私物のレコードや、ご友人の作品集が並んでいました。店内にはレコードプレーヤーもあり、時にはご近所の方が自宅からレコードを持ってきて針を落とすこともあるそうです。

もともとこの場所は、今の大家さんご家族が「テーラー」や「化粧品店」を営んでいた場所。時代に合わせて家族がやりたいお店を開いてきた歴史があるそうです。そんな温かい雰囲気を引き継ぎつつ、大家さんと地域との信頼関係があるおかげで、どんな企画をしても地元の方々がふらりと遊びに来てくれるのがとても心強いのだそう。
店名「cüeの場所」の由来

店名に含まれる「ü」というドイツ語の表記でピンとくる方もいるかもしれませんが、ジュンコさんは真鶴に暮らす前、6年間ドイツに住んでいました。日本の大学で美術を学び、卒業後は美術専門の書店で働きながら、毎年ヨーロッパ各地の芸術祭を巡っていたそうです。
多くの国では、美術鑑賞といえばあらたまって着飾って行くイメージがありますが、ドイツでは散歩のついでに立ち寄るようなカジュアルな服装の人が多く、芸術がいかに生活に根付き、溶け込んでいるかに衝撃を受けたといいます。

その後、1年間のワーキングホリデーを経て、続く5年間はドイツの大学院で美術史を学んだそうです。そんな中、現地で友人が開催する展示会のテキストを書くことになり、タイトルを考えていた時にふと耳にしたのが、YMOの「CUE」……「これだ!」と直感したそうです。
気楽に美術に触れられる場所に

意外なことに、ジュンコさんは昔から美術が好きだったわけではなく、むしろ美術館は苦手な方だったそうです。転機となったのは浪人生時代。当時住んでいた場所の近くで開催されていた現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」に訪れたことが、美術に目覚めたきっかけだそうです。
私自身はというと、西洋絵画は好きは好きですが、「現代アート」となると少し難しくて苦手なイメージを持っています。その魅力を尋ねてみると、「わけがわからない」が「わかる」に変わる瞬間や、最初は嫌悪感を抱いた作品でも解説を読むうちに「面白い!」……へと変化していくプロセスが醍醐味なのだと教えてくれました。

