絵本の世界を支えた人
真鶴半島の根元、海と岬を見渡せる高台に、まっ赤な扉の可愛いお店があります。ギャラリー&カフェ『飛ぶ魚』さん。今日は父と二人でお邪魔したのですが、扉を開けたとたん、私はすっかり心を掴まれてしまいました。

なんとこのお店のオーナー「作田真知子」さんは、福音館書店の月刊絵本「こどものとも」の編集長を、長年つとめてこられた方なのです。「こどものとも」といえば、半世紀以上も子どもたちの本棚に、毎月一冊ずつ物語を届けてきた、名作揃い。

そんな作田さんが、退職をきっかけにオープンされたのが、この絵本とお茶の隠れ家……『飛ぶ魚』になるんだそうです。厳密な地名は湯河原町吉浜になりますが、真鶴の町と自然を大変気に入って、移住されていらっしゃったそうです。
絵本の原画に会える!
その贅沢さは、ギャラリーに一歩入れば伝わってきます。この日は企画展こそお休みでしたが、壁には作田さんが集めてきた作品がずらり。谷川晃一さん、森洋子さん、片山健さん、林明子さん……絵本好きなら誰もが知る作家さんの作品が、こんな小さなお店で、しかも無料で楽しめるのです。

どの作家さんたちも、作田さんが編集者として一冊一冊を一緒につくってきた同志になるのだそう。私の大好きな『はっぱのおうち』の林明子さんが先月に他界されてしまいましたが、過去には原画の個展も開催されていたようです。

父もああ見えて、絵本にはなかなか詳しい「こどものとも」の(ほぼ)一期生。「懐かしい!」「あ、これ記憶から抜けてた!!」などと言いながら、子ども向けの低い本棚に這いつくばっていました。

みかん畑の向こうに海
本づくりの第一線にいた作田さんが、この地を選んだ理由も、来てみて分かった気がしました。カフェの前にはみかん畑がゆるやかに続き、その先に真鶴半島と海がぱあっと広がっています。この日は雲ひとつない青空で、テラスを抜ける風の心地よいこと。

そこで頂けるお茶も、まさに絵本の世界に出てきそうなメニューで、この日は「グラニータ」という名前も知らないスイーツに出会えました。イタリアはシチリア島出身の「かき氷」だとのことですが、日本のかき氷とは違う不思議な食感。

シチリア島……映画「グラン・ブルー」にも登場するダイビングのメッカですが、作田さんは根っからの海好きで、ダイビングもスノーケルも嗜まれてきたそう。なんと先週までは小笠原の海に潜っていたとのことで、豆チョウ採集を本業(?)とする私は、夢中でお喋りしちゃいました。

天井を泳ぐ「飛ぶ魚」
お店の名前が『飛ぶ魚』なことにもこれで納得。海を泳ぐ魚が空を飛ぶように、軽やかにありたい……そんな願いが込められているのだそうです。見上げれば天井に、羊毛フェルトのキラキラした青い魚が一匹。赤い扉の鉄の魚に、風見鶏になっているお魚まで、名前のとおりあちこちにお魚が泳いでいます。

それに嬉しい偶然もありました。以前まなNAVIでご紹介した民泊『Toy Bricks & Books in Manazuru』の香川亘くんのお母さまとばったり再会。ダンゴウオやウメボシイソギンチャクの飛び出す絵本を手作りされる方で、絵本のギャラリーで、絵本をつくる人に出会えるなんて、できすぎた一日でした。

長年、日本の子どもたちの手に絵本を届けてきた方が、真鶴のお隣で、今度は町にその世界を開いてくれている……なんて恵まれた環境でしょう。暑い夏、涼みがてらの絵さんぽに、ぜひ一度、お足をお運びください!
